言わないようにと触れられた唇は、ずっと熱を持っていた。



「せめて…最後に、、伝えさせてくれれば…ちゃんと、諦めもついたと思うのに…」



温度を上げるばかりの想いは、飛び出すことができずに、心の奥で燻(くすぶ)っていた。




「あの夜―、あんたが言いかけたことを、聞きたくなかったのは…」




それまで黙っていた中堀さんが、呟くように話し始める。



予想していないタイミングで突然降ってきた声に、思わず中堀さんを見た。




「俺じゃ、駄目だからだ」





凍えそうなほどに温度が低い空気に、白い息が映える。




「あんたには、きっと、もっと良い相手が見つかる。」




寂しい笑顔で、中堀さんは私を見つめていた。














「俺は、あんたを愛してやれない」









そろそろ、陽が昇り始めるのが見え出すだろう。


さっきよりもさらに、中堀さんの顔がはっきりとしてきた。







「…そうやって、、逃げていくつもりなんですか…?」





搾り出すような声で、私は訊ねる。





「そう言われても、仕方ないね。」





「それは、お母さんを…許せないからですか…?」




踏み込んだ質問だというのは百も承知だ。




だけど、まだ私には言いたいことが残っている。





「母親のことは…覚えてない。最悪な記憶しかない。許すか許せないか、なんてことは選択肢にさえないんだ。ただ―」





一瞬言葉に詰まったような中堀さん。



それからでてきたものは。






「俺は自分の必要性がわからない。」




「自分の、存在意義がわからない。」





「そんな俺が、誰かを大事になんてできない。」





ぽつり、ぽつりと吐き出される、中堀さんの、心の内だった。