だけど、私は。
もう、なんだか。
中堀さんという存在が、そこにあるというだけで視界がぼやけてきてしまって。
こんな自分に情けなくなる。
恐怖ももちろんあるけれど。
―こんなんじゃ、駄目よ。
涙で声が声でなくなってしまう前に、きちんと伝えることは伝えなくちゃいけないと自分を奮い立たせた。
「なかぼり…さん…」
自分の口から出ているのかと疑うほど、頼りなくて擦れた声だった。
それでも十分、相手には届く大きさだったと思う。
なのに。
彼は振り向かない。
途端に、今までとは桁違いな不安に駆られた。
―め、めげない!
簡単に萎えてしまいそうな自分の想いの建て直しを図る。
再度、名前を呼ぼうと小さく息を吸う。
その瞬間。
「―何しに、来たの?」
熱さも、冷たさもない。
かといって、ぬるいわけじゃない。
温度というものを、持たない。
中堀さんの声が、した。


