不機嫌なアルバトロス

「そうやって、辛いと思ってても、隠す奴だから―。もしかしたら、、昔居た施設に行くかもしんねぇ。ここを離れるなら尚更、な。」



「施設…」



「あとはクラブの近くにある、大見歩道橋の上、とかな。アイツ、あそこ、好きだから。」



それを聞いて私ははっとする。



「そこの近くで…私、中堀さんと逢ったんです…」



タカはにやりと笑う。



「それ、偶然じゃねぇな。」



言いながら、タカはバイクのエンジンをかけ、跨った。




「とにかく、居るとしたら今だ。夜が明けたら、アオは見つけられなくなる。」




後ろに乗るようにと手で合図されて、私は戸惑う。




「え…いや、あの、悪いです…私、一人で行けますから…」



ふるふると首を振るとタカは盛大な溜め息を吐いて、私の手をぐいっと引っ張った。



「この時間に呼び出しておいて、悪いとか今更だから。いいから乗って。近くまで送るだけ送る。」




ご、ごもっとも。



肩を落とし、私はすごすごと、タカの後ろに乗った。




「ったく。カノンちゃん女なんだから、その無防備さ、気をつけなよ。」




タカの背中に腕を回しながら、私は小さく返事をする。




「…で、あの…なんで夜が明けたら中堀さん見つからなくなるんですか…?普通昼間の方が見つかるんじゃ…」




走り出したバイクが切る風を感じながら、私はさっき感じた疑問を口にした。



実はバイク初体験だが、時間帯のお陰で景色がよく見えないので、そんなに恐怖は感じなかった。




「アオは…明るい時間が大嫌い、なんだ。特に夜明けは。」



風の音の合間合間に聴こえる返答に、更に私は首を傾げる。




「…多分、本人が気付いてるかどうかは分からないけど…自分の名前と―自分のしてきたことへの良心の呵責を感じている証拠じゃないかな」



真っ暗だった空は、少しずつ白みを帯びてきて、タカの言葉の意味を理解するのを助けてくれた。