俯いていた顔を上げて、中堀さんに目をやると、私より前から、彼は私を見ていた。
その顔は、笑ってもいなくて。
だけど、怒っているわけでもなさそうで。
薄暗いせいで、しっかりと見ることも出来ない。
「ぬか喜び、させないでくださいっ」
いつの間にか頬を伝う温かいものに、自分は笑ったり泣いたり忙しい女だと、頭の隅で思った。
本当は。
最初からずっと、泣いていたんだっけ。
貴方を好きになりたくなくて。
貴方と会えなくて。
貴方に伝えたくて。
貴方が、欲しくて。
―俺の忠告は正しいよ?
警告が、鳴り響く。
けれど、長い間締め付けられた心は熱を持ち過ぎていて。
外に出たいと、言うから―
「私はっ、貴方が…」
好きなのに―
言いかけた言葉は、中堀さんの唇のせいで、音になることは叶わなかった。
浅い、口づけ。
散った、涙。
驚きの余り、目を閉じることも忘れたまま、中堀さんの綺麗な顔を見つめていた。
「言わないで」
息がかかる位の距離で。
中堀さんが、囁く。
少し、苦しそうな声で。
擦れた、声で。
「―これ」
やがて取り出された一枚の小さなカード。
「約束のメモリ。消したって言っても、信じないだろうから、あんたにあげるよ。よく、映ってたしね。」
さっきの切ない顔は、すぐに消えて、中堀さんはいつもの意地悪い笑みを溢した。
呆然としたままの私の手に、中堀さんが握らせる。
「さよなら。」
そう言って外された、シートベルト。


