行きたくない。
とは言わせてくれない立ち姿勢の中堀さん。
本当は、帰りたくないと言えたらいいんだけど。
今、私が素直になったら、中堀さんは受け入れてくれる?
座ったまま、少しの間、中堀さんと見つめ合う。
その瞳に、どんな感情が混じっているのか、不器用な私に読み取ることは出来ない。
「…どうしたの」
「…いえ。」
黙る私を見て不思議そうに瞬きした中堀さんに、咄嗟に否定した。
だめだ。
とてもじゃないけど、言えない。
恐い。
今言ってしまえば、この場を去っていってしまうんじゃないかと、恐い。
こんな雑踏の中で、ひとりぼっちにされたら帰れない。
燈真の言葉も頭にまだひっかかっている。
私は椅子から立ち上がって作り笑いをした。
「なんでもありません。行きましょう。」
少しでも、傍に居たい。


