不機嫌なアルバトロス

で、できるだけちびちび飲もうっと。


セコい時間稼ぎをしながら、私は隣の中堀さんを目に焼き付けようとする。



濃紺のコート。


さらさらの黒い、髪。


体の線。



触れたい。


でも、触れられない。


小さな距離なのに、大きく感じる。



温もりも覚えたい。


だけど、叶わない。





「…何?」




とっくにコーヒーを飲み終わっていたらしい中堀さんが、視線に気付いて不機嫌に振り返る。




「あ…っと、いや、なんでもないです」




不自然なほどに目を明後日の方向に逸らすと、不服そうに中堀さんが私のピーコートの裾を引っ張る。



ひっぱる、とか。


その行為自体がもうドキドキ過ぎて、心臓が持たない。


今日一日で、私の寿命、どれだけ縮んだろう。


責任とってくれないかな。



逸らした目をゆっくりと戻すと、中堀さんがさっきよりも近い距離で私を見つめている。




「なっ!!なんですかっ。ち、近いです。」




「ありがとう」




間髪容れず、やけに素直に吐かれた言葉が、別れの輪郭を私に感じさせた。





「な、中堀さんに、その言葉は似合いません!」




それを追い払いたくて、私は素直になれずにそっぽを向いた。




「なんだよ、それ。」





私はじわりと目に溜まった涙をなんとか逃せないものかと思案しながら、呆れたような笑い声をだけを聞いた。




ここまで我慢していたものが、溢れ出そうで恐かった。





「でも、ほんと。失敗も多々あったけど、助かった。」




そんなことを少しも気付かない中堀さんは、感謝の言葉を紡いでいく。




「失敗もあった、は余計です!」



かわいくない私は顔を飛行機の見える大きな窓に向けたままで、駄目だしをする。