「そろそろ行かないと。」
手荷物の検査を行う場所が混雑してきたのをちらっと見て、中堀さんが志織さんに言うと、志織さんはうんと頷く。
「…じゃあ、またね。乃々香ちゃん。」
「色々と、ありがとうございました。」
私は深くお辞儀をした。
今、志織さんはどんな気持ちで居るんだろう。
複雑な心境だ。
この先、彼女の想いが叶うことはないのだから。
「荷物、貸して。そこまで持つから。」
中堀さんはそう言うと、志織さんの脇にあった鞄を持とうとした。
「…一哉」
寂しげに俯いていた志織さんは、静かに恋人の名前を呼び、中堀さんに飛びつく。
中堀さんの背中に回した手がぎゅっとなるのを見て切なくなる。
華奢な身体を、中堀さんがそっと覆う。
―最後の、別れ。
私は二人っきりにしてあげなくちゃ、とその場から少し距離を空けた。
本当に、これで良かったのかなと、自分自身に問いかけながら。


