一瞬、自分よりも長く中堀さんと居た志織さんに、嫉妬の気持ちが生まれる。
あの人に触れる事が出来るという妬みをかき消せるよう、明るい声を出すことに努めた。
「そんなっ、謝られることなんかないですっ。それより、お別れすることが、、残念です。」
あの人の香りが。
胸を切なくして、心を揺さぶって、気が狂いそうになる。
「私も…残念よ。だけど休んじゃったからその分頑張らないと、ね。」
小さくガッツポーズを作ってみせる志織さんから、悪意はひとつも感じられず、こんな人になれたらいいなと心底思う。
同時に、こんな人ですら、中堀さんの心をもらうことができないなら、私なんかよっぽど無理だ、と思った。
「乃々香ちゃんも…手術、頑張って。元気になるのよ?じゃないと怒るから。」
怒った顔がこんなに似合わない人も珍しい。
腰に当てて見せた手と、下手につり上げた眉が可笑しい。
「志織さんが怒っても、恐くないです」
さっき芽生えた焼きもちなんか吹っ飛んじゃって。
あぁ、もう、いっそのこと、この人が、中堀さんのことを幸せに…本当に幸せにしてくれれば良かったのにとさえ考えながら笑った。
「馬鹿にしてるわねぇ?私が怒ったら恐いんだから!」
頬を膨らませる志織さんの横で、中堀さんは穏やかに微笑んでいる。


