不機嫌なアルバトロス

「足元、気をつけてね」



ふらつく足取りで燈真の脇を通り過ぎる際、囁かれるようにして忠告された。



「お気遣いっ、どーも!」



私は澄ました表情の彼をきっと睨み、おぼつかない足に力をこめる。


出た所は階段で、内心がっかりする。




「俺の忠告は正しいよ?」




カンカン、音を立てながら、手すりにつかまってなんとか降りていると上から声が降ってきた。



声の方に目線を上げることなく、私は真っ直ぐ進行方向を見つめる。




けれど。




「これを破ると、あいつは取り返しがつかなくなるからね。」




続く穏やかではない言葉に、一瞬足が止まってしまう。



が。



とにかく時間がない。



小さく首を振って、私は階段を降り切った。



真っ暗で光の入らない階下は、どこが出口かわからない。


真夜中の華々しさや賑やかさが嘘のように、静まり返っている。




「…どうしよう…」




戻って、燈真に訊くのも癪だ。


焦燥感が手伝って、立ち止まったまま泣き出しそうになる。





このままじゃ、間に合わない―





頭を抱えたその時。





「あっ、カノンちゃん!起きたんだ?」




明るい声と共に、既に陽が落ち始めているとはいえ、外の光がその場に流れ込んでくる。





「…タカ?」




逆光になって見える影に目を細めながら呟いた。




あそこが…出口。



わかったと同時に私は走り出す。




「お、っと…て、え!?」



突進する私に、タカは状況が飲み込めずに狼狽している。



「どいてっ」



「ちょっ、どこいくの?」



タカの横を擦り抜けて外に出ようとすると、腕を捕らえられた。