「あいつのことを本気で好きなら、好きって言わないことだね。それは零にとって…いや、空生にとって、トラウマだ。男に対して女が抱く感情は、自分が母親からもらえなかったものであり、殺された母親が他人の男に捧げた嫌悪すべきものだ。」
私に背を向け、放った煙草を靴でぐりぐりと踏みつける燈真を呆然としながら見つめた。
聞きなれることのないワードが、自分の心を貫いた。
―殺された?
「それってどういう…」
燈真はドアの前までゆっくりと歩くと、こちらを振り返る。
「さ。そろそろ時間だよ?今、16時を過ぎたところだ。」
そう言って、ドアを開け、出て行くようにという仕草をした。
これ以上話す気はない、と主張しているようでもあった。
だが、やっと時間を知った私にも、もう話す猶予は残されていない。
すぐさま立ち上がると、傍に置いてあった自分の鞄を引っ掴んだ。
ここから家までタクシーでも30分。
家から空港まで最寄の駅から1時間はかかる。


