「花音ちゃんには、お父さんとお母さんが居るでしょ?」



今までの話と、脈絡がないように聴こえる質問に思わずきょとんとしてしまった。



「零にはそれがない。どっちも。」




「え…?」




まるで世間話でもするように淡々と話す燈真の言葉に、聞いてるこっちの胸が痛む。



いつか、自分の髪の色のことを教えてくれた時の彼の顔が浮かんだ。



―片方、だけじゃ、なかったんだ。



両方、親が、居なかったんだ…



あの時、聞く事が出来なかった続きに、胸がぎゅっと締め付けられる。





「普通、人は母親から愛されることを学び、愛することを学ぶんだ。自然とそれは身についていく。だけど零にはそれがない。」




言いながら、燈真は短くなった煙草をコンクリートの冷たい床に放り投げる。




「愛された記憶が、あいつにはない。必要とされたことがない。捨てられた記憶しかない。」




いつの間にか、一言も聞き漏らすまい、と耳を欹てている自分。


手の先が、冷たくなっているのがわかる。




「零は、人を愛さないんじゃない。愛せないんだ。」




言ってから、燈真は腰掛けていたソファから、立ち上がる。