「そうだよ!一杯だけ、それだけでいいから、付き合ってよ!」




タカはそれに便乗し、やけにニコニコと笑う。



二人に気圧されながら、私は仕方なくもう一度座りなおした。



「…じゃ、、折角なので…一杯だけ、飲んだらにします…」




「やったー!」



無邪気に喜ぶタカ。


そして―



あれ?



見間違いだろうか。



私は目を擦る。



今、確かに、少しだけ。



葉月が笑ったように見えたのだ。



だけど見直してみても、葉月は無表情で、その内カウンターの端にいる客と話し始めた。




ま、いっか。



私は特に気にすることもせずに、グラスに口をつけた。




これを一杯飲んで、直ぐに帰ろう、と。








ん?あれ。


これって―







「なんか葉月が無愛想でごめんなー。」



タカが申し訳なさそうに私に謝る。



「あ、いえ、、そんな…」




言いながらも、空になったグラスに私の目は注がれたまま。





「…で、さ。カノンちゃん…実は、俺、話したいことがあって。真剣に。」




タカが何やらきりっとした表情で、言っているけれど、私には遠く聞こえる。




「俺…、さ。。。カノンちゃんのこと―」




その時。



私の視界はぐにゃりと曲がり、手からグラスが消えた。



絶対に、割れたはずなのに。


割れた音はしなかった。



私の耳に聞こえたのは。




「カノンちゃん!?」



タカの驚いたような声と。



「葉月!お前―」



責めるような、声。




あぁ、それが。



貴方の声だったら、良かったのに。