背中を押してくれた憲子は、会いに行けって言うけれど。
会いに行った所で、なんて言えば良い?
何の、用もないのに。
ただ、会いたいからって、言って。
私たちに何が残るんだろう。
それが怖くて。
自分の中に閉じこもって、結局動けないでいた。
「こんなんで、明日大丈夫かな…」
回していた帽子が指から外れ、パサッと軽い音をたてて枕の横に落ちた。
顔を見ただけで、泣いちゃいそうな自分が居る。
―やっぱり、駄目だ。
唇を噛み締め、私は落ちた帽子を見つめた。
少しでもいいから。
気付かれなくてもいいから。
ちょっとだけ。
顔を見るだけ。
ルナに行ってもいいかな?
そしたら、明日、頑張る。
で、最後、自滅してもいいから、気持ちを伝える。
それでいいかな。
そこまで考えて、うん、と頷いた。
それでいい。
だってもう、他に方法を知らない。
どうしたら上手く行くのか、適当な恋をしていた時には手に取るようによく分かった。
だけど、中堀さんのことは何もわからない。
その上ぐちゃぐちゃで駄目な自分しか見せることができてなくて。
大人で物分りの良い女になることなんてできなくて。
好きになりたくないと抗っていたからなのか。
最初から本気で好きだったからなのか。
もう、わからないけど。
がたがたに積み上がった気持ちの整理をしてみると。
残ったのは、シンプルに、好きの二文字だけだった。
理由もなく、どうしようもなく、ただ、中堀さんのことが好き。
それで、いいんじゃないかって。
小学生並みだけど。
いや、それ以下かもしれないけど。
一番重要な部分だと思うから。