質問した張本人は、俺が訊き返すとは思っていなかったらしく、目を丸くして―まるでしまった、とでもいうように―掛け布団をぎゅっと掴む。



『……い、妹じゃなくって…こっ、恋人としてってことです…』




最後の方はごにょごにょと小声で言うもんだから聞き取りづらい。




『聞かない』




即答すると、櫻田花音は眉間に皺を寄せて、目を瞑る。



なんだよ、オワリか?



暫く何も言わずに観察していると、段々とその眉間の皺が薄くなっていき、やがてすーすーと規則正しい寝息が聞こえてきた。




寝たのかよ。



俺は呆れつつも、組んだ膝に頬杖を付いて、あどけないその寝顔を見つめ続ける。




―恋人として、か。



あのまま、例えば、勧誘が上手く行っていたとして―


俺はコイツと恋人同士で騙していただろうか。


他の女みたいに?



手を伸ばせば、触れられる距離で、俺は考える。



上手く、できただろうか。


甘い言葉を囁いて。



………



そこまできて、俺は首を振る。


いや、想像できない。


櫻田花音を相手にそんなことやってたら馬鹿馬鹿しい気がする。


何よりもまず。



何のメリットもない。



でも。それじゃぁ…俺はなんでコイツにキスをしたんだ?



何で触ろうとする?



駄目だ。


これ以上考えるのは、止めよう。


今でさえ、危険な気がしている。



触れたり、近づいたり、するのは、コイツ相手には危険な気がする。



あー、ほんと。


俺、どうしたんだよ。



ここ数日ずっと頭を悩ませている核心に触れるのは、怖い。



はー、と溜め息を吐き、気がつけば溢していた。




『…色んな意味で、ね…』



あんたに近づいたのは、もしかしたら、間違いだったかもしれない。