まんまと罠に引っかかった櫻田花音は振り返って俺の顔を見ると、嬉々として上げた頬を引き攣らせた。
『で?何がつまんなかったのかな?』
満面の笑みで腕組みをしながら、もう一度訊ねる。
『な、なんでも…』
往生際が悪いな。
『言え』
有無を言わさない俺に、櫻田花音は漸く観念したかのように項垂れた。
『……かわいい、キャラクターのタオルとか、、、ないかなって…』
『はあ?』
なに、それ。
どういうこと?
ばかじゃないの。
それ、仮にあったとして、どーすんの?
『っとに、意味わかんない女』
子供か。
堪えきれずに、俺は素で笑った。
『そろそろ、寝ろよ』
いつの間にか時計の針は1時50分を過ぎている。
こいつ、熱あるんじゃなかったかな。
なんで、こんなにテンションが高いんだろう。
『あれ、そういえば…クラブの方は良かったんですか?』
どうしてこいつは、自分ん家の鍵を忘れる癖に、こういう余計なことは思い出すんだろう。
面倒だな、と思いつつ。
『休んだ』
小さく呟いたのに、ちゃんと聞き取っていたようで。
『え!?』
櫻田花音はひっくり返りそうな声で叫ぶ。
うるせー。
『うるさい。いいからもう寝ろ』
このままにすると、さらに面倒なことになりそうだ。
しっしっと寝室の方へ追いやるも、振り返り振り替えり、櫻田花音は俺を気まずそうに見る。
『でででもでも、わ、悪いこと…』
『別にあんたの為じゃない。俺が勝手に休みたかっただけ、おやすみ』
その肩を掴んで、寝室に押し入れる。
『ちょ、ちょっとま…』
はい、さよーなら。
俺は勢いよく、ドアを閉めた。


