『…そうだな』



鈍い痛みに気付かないふりをして、俺は手に持ったペットボトルを見つめた。



『え…』



『俺のことなんか、好きになったら駄目だよ』



それで、大正解だ。



あんた、男運ないみたいだからな。



『…中堀さん?』



鼻をぐすぐす鳴らしながら、泣き腫らした目で櫻田花音は俺の名前を呼ぶ。



ちょっとからかいたくなって、鞄のことも伝えると、直ぐに慌てふためく。




少し可哀想かな?と思い、俺も折れて志織のことを話す。




ついでにこれからの展開も添えて教えてやると。




『…ひどい…』



また、睨まれた。



でもまぁ、その通りだから。




『…うん、非道いね?』



笑って頷いてやる。



その瞬間、少し距離を空けて座っていた櫻田花音が、俺に掴みかかった。



『どうして?!』



きらきらと、涙が散る。



こいつは。



一体。




どうしちゃったっていうんだ。



この阿呆鳥はなんでこんなに癇癪持ちなんだよ。




『…なにが?』



俺は敢えて挑発的な態度をとって訊きかえす。




俺のシャツをぎゅぅっと掴んで、ぼろぼろとまた泣きながら、櫻田花音は嗚咽交じりに話す。





『どうして…そんなこと、してるんですか?な、中堀さんは…、別に困ってるわけじゃないじゃないですか…仕事、自分の好きな仕事、あるじゃないですかっ、光れる場所が、あるじゃないですかっ』




それを聞いてこの街に戻ってきたばかりの頃、崇にも訊ねられた質問が記憶を過ぎった。