不機嫌なアルバトロス

「少し、席を外します」




小さく櫻田花音に耳打ちして、志織の向きを変えさせた。




「驚いたな。志織、ここ使うことってあったんだ?」




俺がその情報を店員から得ていることなんて知らない志織に、心底驚いているフリをする。




「そんなことは、どうでもいいのよ。あの子、もしかして…」



「しっ、乃々香は俺が病気のことを他言しているなんて知らないんだ。さっきみたいなことされると…」




そう言って、困った顔をしてみせながら、志織の肩を優しく掴んで奥の席に座らせた。




「じゃ、やっぱり…妹、さん、なのね?」




黙り込む俺を見て、志織は溜め息を吐く。




「あれ、会社の制服でしょう?あの子、まだ、働いているの?」




俺は苦虫を噛み潰したような顔をして、志織の向かいの席に腰を下ろす。




「まだ、今の所、容態は落ち着いているんだ…。」



「でも、爆弾を抱えているようなものでしょう?いつ何があるかわからないじゃない」



「わかってる。でも、仕方ないんだ。。少しでも…働かないと…」



俺は俯いて、膝の上に置いた拳を握る。