不機嫌なアルバトロス

ほんと、何なの。このヒト。


俺、どんだけ悪い人物になってるんだよ。


明らかに怯えきってる感じの表情しちゃってさ。


まぁ、確かに橙真のこの店も看板も何もないから、ちょっと問題あるけどさ。




段々可笑しくなってきて、つい、声を立てて笑ってしまう。



はっとした女が目を見開いたまま、俺を見た。





まずい。けど。



やっぱりあんた、おかしな女みたいだ。




「…すみません。笑っちゃって。…さっきから表情がコロコロ変わるのでつい」




一応謝罪の言葉を述べてから、




「本当に、食事する所ですから、安心してください」



と、言い添える。


その瞬間、女の顔がまた真っ赤になった。



あぁ、やっと俺の笑いの意味を理解したんだな、と思った。


そのくらい、とろければ、上手く騙せそうだ。


俺は違う意味でも笑いながら、店のドアを開けた。



カウンター席に着く際に、奥にある志織の居る席が視界の隅に入る。



―お、ばっちり。志織は見たな。



予定時刻通りの流れに、安堵した。




「一哉…」




適当に、女にメニューを説明し終えると、俺の嘘の名前を呼ぶ声が。






しいて言うなら、もう少しボリューム下げて欲しかったけど、贅沢は言わない。




俺は今気がついたようなフリをして後ろを振り向いた。




「ねぇ、この方が?」




志織が女に、もとい、櫻田花音に掌を向ける。



んー、それはナンセンスだな。


心の中で駄目出し。


それは、いらなかった。



良い女は、そういうこと、しないよ。




多分、そこに座ってる女は阿呆だから、大丈夫だけど。