「だ、だ、だいじょうぶれっす!」




この女。


俺の差し出した手を取る事無く、立ち上がった。



なんか、噛んでるし。



「良かった」



とりあえず、笑いかけてから、道路に散乱する書類を拾う。


ついでに、社員証は一番最初に拾ってさりげなくコートの袖口に隠しいれる。




「あ、す、すみません」



全く気付かない女は、申し訳なさそうにそう言うと、慌てて自分も拾い始める。



遅いし。



女の拾い方は明らかに効率が悪い。




風の強い日じゃなくて助かった。



書類が意外とあるから、吹き飛ばされたら面倒なことになりそうだった。





「はい、どうぞ」





そんな心中はおくびにも出さず全て拾い上げると、吹っ飛んでるバッグと共に女に差し出した。




「あ、あありがとうございます」



どうでもいいけど、なんでさっきからこの女はどもるんだ。


―遊んでそうな女、なんだけどな。


第一印象よりも、なんかとろい。


ま、いっか。


なんでも。


使えれば。



俺の中で本採用が決定。




「痛いところ、ないですか?」




ここで、腰がちょっと、とか言えばそのまま病院付いていくっていうのもアリかな。



あれだけ突き飛ばしちゃったから、相当痛かったはずだ。




「だ…だいじょうぶです。ありがとうございます」



ほぉ。そう来るか。

まぁ、そうか。



一人で変に納得しながら、じゃ、やっぱり社員証だな、と考える。



だけど今は、まだその時じゃない。



とりあえず、ここはさっぱりとさよならしようか。