「あ、そうそう。ところで、肩どうしたの?昨日変だったけど…」





憲子はほっぺたをグィっと押して私を引き剥がす。





「あー…実は…」





横に並んで歩きながら、私は土曜日に宏章との間に起きた出来事を話した。




「あいつ…そこまで最低の男だとは思わなかったわ…」




憲子の怒りのボルテージが上がっていくのがわかる。





「でも、私も悪かったんだよ。」





会社につく頃、私は憲子に言った。




「私が、適当な関係をずっと続けてきたから。」




「花音…」




自動ドアを通り過ぎつつ、憲子が呟やいて私を見た。




「私、泣いて帰ってくると思う。そしたら、憲子、慰めてね。」




社員証を機械に通して、ゲートを通過すると私は憲子を振り返る。



「…うん。」



憲子が優しく頷いた。



「あっと…、いけない。午後一の会議で使う、コピー頼まれてたんだった。先に印刷だけ済まして、化粧室に行くねっ」



時計を確認して、私は慌ててパタパタと走り出し、憲子に手を振る。




明らかに元気を取り戻しつつある私のそんな後ろ姿を見ながら―




「よりによって、どうして…あんな人に出逢っちゃったのかしらね…」




憲子が溜め息を吐いたことなど、知る由もなく。



私はやっと自分自身の気持ちを受け入れることが出来た余韻に浸っていた。



何もかも、頑張れる気がした。