「危ないっ」




走り続けて居た所を、後ろから引っ張られて私はその痛みに顔をしかめる。


大勢の人たちが周囲に居るのを見て、あぁ、ここは横断歩道だったんだと理解した。


そして、進行方向は赤で、車が次々と通過していく。


それに気付いたからといって、謝ったりお礼を言う気分でも状態でもなく、私は肩で息をしながら引っ張った相手を振り返った。




「………な、…なんで…?」





あまりに驚いて言葉が出てこない。


だって。



なんで、ここにいるの?この人。



さっきまで、あそこに居たのに。



私を悩ますこの人が、なんでここにいるんだろう。



信号が青になって、周りの人たちが動き出し、その場に誰も居なくなっても、私も相手も、動かないで、ただ見つめ合っていた。




「…お前って、、ホント、世話の焼ける女なんだな。」



暫くして呟かれた言葉。


中堀さんも、私の腕を掴みながら、少し息を乱している。




「なんで、泣いてんだよ?」




―あぁ、どうしよう。



涙は今更止まってくれない。



だけど、上手い言い訳も思いつかない。



でも言ったらきっといけない。


ここで言ったら、今までもこれからもきっと無くなってしまう。



なのに―



「あ、、、あなたがっ……」




胸だけが熱くって、手は震えている。



まずい、頭では理解しているのに。




「欲しいんです…」




口からするりと落ちてしまった言葉。



これだけしか、私のココロにはもう、残っていなくて。


それしか、なくて。