なのに。


最後のメールをもらう前日。


私との約束があったのに、宏章は待ち合わせ場所に来なかった。


いや、来てはないけど、居た。


寒い北風。


雪が降りそうな空。


息を白くさせ、鼻を赤くさせ、コートのポケットに手を突っ込んで待つ私の前に。


仲の良さそうなカップル。


そんなの沢山居たんだけど、私はその中のひとつに、目が釘付けになった。





「宏章…」




隣にいるのは、私じゃないね。


背の低い、ふわふわのボブのかわいい女の子。



一瞬宏章とは目が合ったけど、私から逸らした。


だって、知ってたから。


知らないフリをしたくて。



そのまま、二人に背を向けて、私はあてもなく歩き出す。




見なかったことにするから。

知らないから。


だから、またいつも通り会って、愛してるって言って?


それでいいから。


私、少しも痛くない。


傷ついてなんかいない。


この場で泣いて喚いてそのベージュのコートをくちゃくちゃになる位握り締めて『どうして?!』なんて言う、面倒な女じゃないから。


明日、また、いつも通りに、笑って挨拶するから。



だから、一人にだけはしないで。



涙も出ない。

心は冷えて。

外も寒い。


これで一人になっちゃったら、凍えちゃうから。




そんなふうに、思ってたのに。