「!何すっ…」



後ろから覆うように抱きかかえられている為に、振り返ることができない。




「―やり直したいんだ。」




熱い息が、髪の毛に掛かる。




「俺、花音のこと好きだよ」



左手で腰を。


右手で肩を。


ぎゅっと抱き締めて、宏章はいとも簡単に愛を囁く。






エレベーターはゆっくり動き出し、下へ下へと向かいだす。


外はもう、見えない。


『ごめん、もう会わない』のメールが着た時。



またか、と心が折れそうになった。



宏章に、別の女が居ることは、実は大分前から分かっていた。


なんなら付き合いたての頃から、知ってた。


それでも、宏章は扱いが上手くて。


私を一人ぼっちにさせないようにしてくれたから。


猫みたいな目が、優しそうに見えたから。


私を好きだよって囁いてくれたから。


会社でのポジションは出世コースだったし。


最後に、私の方を選んでくれたら、なんて淡い期待を抱きつつ、毎日笑顔で会ってた。


そしたら全部チャラにして、忘れてあげるから、だから、傍に居て。


そう願ってた。