別にコソコソしなくてもいいんだけど、しんとしているフロアに、自分一人の音が響くのは心臓に悪い。


というわけで、私はそっと更衣室を後にして、誰かに会っても嫌なのでオフィスにも寄らず、自宅へ帰ろうとそそくさエレベーターに乗り込んだ。



「ふぅ…」



ガラス張りのエレベーターは落ちていく。


一度、落ちてしまえばなんてことはないのだが、動きだす瞬間がどうも苦手だ。


見えないように、目を瞑ってエレベーターが一階で止まるのを待つ。




お、止まった。



その感覚に、私は安心して目を開く。



だが。


開いた扉の向こうを見た瞬間、私の頭は真っ白になった。


かろうじて階を確認すると、デジタルの数字はまだ3と表示されている。




「…休日出勤?」




乗り込んできた相手も、少々面食らったような調子で訊いてきた。



「…まぁ。。そんなとこ。…宏章も?」




「ん。ちょっと急ぎのが一件あってな。地下の資料室に行く所。」




「…そう、、なんだ。」




気まずい沈黙が流れるが、幸いエレベーターはもう一階に到着して、私は胸を撫で下ろす。




「あ。じゃ…」



横に並んでいた私は外に降りようとして、宏章に背を向ける。



が。



「待って」



少し強引に腕を引っ張られた。



「え、ちょっと…」



何がなんだかわからない間に、がっちり腰に手を回されて、空いた方の手で閉のボタンを押す宏章。