========================



「お世話になりましたっ!」



時刻は午前10時を少し過ぎた頃。


会社前の道路で、車内の中堀さんに頭を下げた。



「今度は、忘れ物ないようにね?」



ハンドルに寄りかかるように、外にいる私を見上げる中堀さんの計算外な上目遣いに思わずクラクラする。



「もちろんですっ」



大判なマスクに表情を隠して、私ははっきりと返事をした。



「ん。元気になって良かった。」



中堀さんはそう言って、にっと笑う。



お願いだから、ヤメテクダサイ。って言いたくなるけど、内心嬉しかったりもする。


自分のこの心の収拾はつきそうにない。



「ところで、ちゃんと開いてるんだよね?」


「あ、はい。」



以前にも土曜出勤したことがあるが、大抵誰かが居る上に泊り込みの警備の方もいらっしゃるので、間違いない。



「そ、良かったね。じゃーね」



ばいばいと手を振ると、中堀さんはウィンカーを出して直ぐに行ってしまった。




「か、かわいい…」




その場に突っ立ったって、車が見えなくなるまで見送りながら私は呟く。



ばいばい、とか。



なんなの。


中堀さん、一体アナタは幾つなの?


冷たかったり、優しかったり、かわいかったり、不機嫌だったり。


ほんと、謎。


少し頬を緩ませながら、回れ右して歩き出す。


昨晩の雪は積もるまではいかなかったものの、所々道を薄く凍らせている。