「まだ熱あるんだから、無理すんなよ。そこにあるスウェット、俺ので少しでかいだろうけど、着替えてもらって構わないから。」
ダウンジャケットを羽織り、中堀さんはそう言うと、必要なものを私から聞き出してコンビニへ行ってしまった。
「ど、どうしよう…」
一人、取り残された私は、温かいスープを前に途方に暮れる。
なんか。いつもの中堀さんとは少し違う、柔らかな雰囲気に呑まれてしまいそう。
折角、好きにならないと宣戦布告までしたのに。
なんでこんな時に優しいんだ…
その上、お泊り…
ほんっっっと。
バッグ忘れるとか、サイテー。
じゃんじゃん泣いたり喚いたりしたせいで、メイクが崩れているのは百も承知。
どうしていっつも中堀さんの前で、私は少しもかっこよくない、かわいくない、素の自分になってしまうんだろう。
「とりあえず…居ない間に着替えておこうっと」
真剣に考えると受け入れることのできない現実に、ノックアウトされてしまいそうなので頭を真っ白にした。
それから椅子から立ち上がって、ソファの背もたれに掛かっている黒のスウェットを掴む。
誰も居ないんだけど、なんだか気恥ずかしくて、ソファの影に隠れながらこそこそ着替えを済ませた。
うわ。
あの甘い香り。
服についてる。
なんか、もうどーにかなりそう。。
心臓をばっくんばっくん言わせながら、私は長すぎる袖と裾をまくる。
「か、顔あらお…」
中堀さんが出て行ったドアから廊下に出て、そわそわと洗面所を探す。


