「そうでしたっ。あの、それを訊こうと思って、こないだクラブに行ったんです。会社まで、知られちゃって…中堀さんが居なくなった後、私どうすればいいですか?」



俯いていた顔を上げて、さっきよりもやや近い隣にいる彼と目を合わす。


中堀さんは、あぁ、という顔をした。



「どうって…そのままいつも通り過ごしてれば良いよ。」



「……え」



「だから、そのままで居れば良い。何も考えることはない」



余りに真顔で答えるので、戸惑う私。



そのままって、、、どういうことでしたっけ?


「実はね…」


そんな私を面白そうに横目で見つつ、中堀さんが言う。



「志織が会社に行くように仕向けてたのは俺なんだよね。」



「え?」


予想外の言葉に、私は更に固まる。



「物事には色々信憑性を持たせないといけないからね。だけど―、あんたの会社の場所を知られてもいいと思ったのは、志織の仕事柄大丈夫だと思ったからなんだ」



ソファに深く寄り掛かって、中堀さんは淡々と話す。


「今志織は日本に帰ってきてるけど、あと一週間もすればロンドンに行く。で、まぁ暫く戻ってこない。つまり―、それまでに結婚まで漕ぎつけたいと思っているんだ。今は正念場って所かな。」



そう言うと、彼は天井を見上げた。


「佐藤一哉は妹のオペが無事終了したら必ずロンドンに迎えに行くと約束する。だけど、それでサヨナラだ。ずっと待っていても一哉からの連絡は来ない。かけなおしても音信不通、だ。」



「…ひどい…」



なんてことはないようにスラスラ話す中堀さんを思わず睨んだ。