「え、いや、あの、そうでなくてですね…」
なんとか宥めようとした時。
ザワッ
会場が騒がしくなる。
「お、始まるな」
トーマが呟いたのが微かに聞こえた。
ただでさえ、薄暗い会場内の照明が更にぐっと絞られ、一点が青いライトで照らされる。
「きゃー!!!!!!」
心なしか、女の人の歓声が強いような?
思った途端、爆音がビリビリと身体に響いた。
「うわわ…」
驚いた私は思わず縮こまった。
それとは対照的に、会場は益々ヒートアップしていく。
明日も仕事だっていうのに、皆よくこんなに集まってるなぁ。
はたと気づき、腕時計で時刻を確認した。
―まずいじゃない。
時計の針は0時を過ぎている。
早く伝えて帰らなきゃ。
明日が辛くなる。
憲子が心配だけど、さっきよりももっと人が増えたせいで見つけることができない。
もう!
「あのっ、本当にっ、教えていただけないですか?私達もう行かないと。」
「だからぁ、ほっぺにちゅー」
くっそー。
唇をぎゅっと噛む。
若干の焦りも手伝って、背に腹はかれられないと思った。


