「何?腕どうかしたの?」 エレベーターの中で、憲子に指摘されて初めて気づく。 「!ううんっ、なんでもない」 憲子は暫く不思議そうな顔をしていたが、1階に着く頃には美味しいケーキ屋の話をしていた。 考えない、考えない。 ぼーっとしているとどうも、中堀さんのことばかり考えてしまう。 自動ドアを抜けて、冷たい空気に触れる。 うわ、寒い。 身を縮こませて震える。 「うわー、綺麗な人」 隣に居る憲子の声に、ふと顔を上げると、憲子の視線の先に誰かがいる。 道行く人もチラチラと振り返っている。