果てしなく遠い愛へ




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「…愛月 Azuki には関係ないよ。」


思ったよりも冷めた声音に、私の瓜二つの容姿をした美貌の彼がさっと表情に怒気を浮かべた。


やってしまった……。彼を怒らせるのは私の得意と言ってもいいけれど、別に怒らせたくて怒らせるわけではない。


……ただ、いつもこうなってしまう。


「巫山戯んな、朋果 Tomoka 。言ってんだろうが、飛花世 Hikase には近付くんじゃねぇ。」


「ヒカは多少頭のイかれてるただの変人だよ。悪意はあっても害意はないさ。」


「そのただの変人に、お前は殺されかけた事を忘れるな。」


アズキの深緑の瞳が私を写し、彼の手が私の髪を耳に掛ける。
同じ容姿をしていても、決して同じではない。


アズキの瞳の色は深緑。けれど私は何もかもを写す銀白色。
すぐに感情的になる傲慢なアズキ。けれど私は理性で感情を殺す理屈屋。


中性的な美貌と亜麻色の髪は同じ。
私とアズキは、一卵性双生児だ。


アズキが私を朋果、と呼ぶ時は大抵怒ってる時くらい。普段はトモって呼ぶから。


「……愛月サマ、朋果サマ。天 Ten サマがお呼びで御座いマース。」


少し高めの声音に顔を向ければ、まだ五つ程の女の子がいた。おかっぱ頭に真っ白な肌の、ゴスロリ調のワンピースを着た可愛らしい女の子。


…普通の女の子、と言えないのはきっとその子の目が左右で違うから。
右は金色で、左は瑠璃色。


くりんとした瞳に好奇心を乗せたその子と視線を合わせるように屈む。


「有り難う、瑠璃 Ruri ちゃん。」


「ふふっ、礼には及びませんよォ〜。それじゃあまた会いましょう!」


くるくるくるくる。


踊るような動作で去って行く瑠璃ちゃん。自由奔放で好奇心旺盛な彼女に苦笑を漏らし、立ち上がって未だに難しい顔をしているアズを振り仰ぐ。


……全く。いつまで怒ってるんだか。