あれから数週間、あっと言う間に五月に入った。

矢吹とは相変わらずだったけど、ふとしたときにお姫様抱っこの際の羞恥とか、保健室の平然と言っていた言葉の内容を思い出し、なんとなく気まずくなっている自分がいた。

矢吹からいつも女性ものの香水の匂いがしていたのは、そういう理由らしい。

あいつにとって女って、そんなもんだなって。
そう思った。

「居ないのかー?」

先生が言う。

コロコロ、とシャーペンをなんとなく転がし、ちらりと矢吹を盗み見た。
ぐーすか寝てる。

距離は、縮まってるのかな。
なんか強制的にメアド交換もしたけど、仕事中以外はからかわれるだけ。

なんか、変な関係だ。

「時間ないぞー?」

教卓に立つ先生がちらりと時計を見る。

あと十分で、六時間目が終わりになる。
今は、数週間後の体育祭へ向け、実行委員を決めてる……んだけど。

全く、誰も手を挙げない。

そりゃそうだ、生徒会と同様に、実行委員も殺人的に忙しい。
誰も好んでやらないだろう。


ざわざわクラスがざわめく。

「ん…。うるさい、なあ」

「あ、起きた」

顔をしかめた矢吹が起き上がった。

反射的に顔を背ける。

なんか、顔を合わせずらいのさ。