(…私も帰ろう。)
バックを持って、ゆっくりと教室をでる。
下駄箱でいつものように靴を履き替えて、つま先をとんとん、として靴をしっかり履く。
そして昇降口を抜けて門へ一定の足取りで進む。
いつも通り。何も変わらない。
そんな日々が私は好きだった。
「まーーーおーーちゃん!」
「ぅ、わっ?!」
突然後ろから声をかけられて、ぼーっとしていた私は驚いて変な声が出てしまう。
「え、あ!裕先輩っ!!」
「やほー」
無邪気で屈託のない、明るい笑顔と
元気が出る声。
おそらく部活上がりだから暑いのか、
軽く腕まくりしている袖から出ている筋のある腕。
首元の喉仏。
全部かっこいい。全部好き。
触れたい。
許されないなんて分かってるから
くるしくて私は先輩から少し目をそらした。
「……お姉ちゃんの所へ行くんですか?」
「んー?そーだよ。
だから家まで一緒に行こうか」
ニカッっと白い歯を出して爽やかに笑う。
もし、先輩がお姉ちゃんの恋人じゃなかったら、サッカー部のエースなんていう高嶺の花の先輩とは
話すことはおろか、こうやって並んで歩くこともできないんだろうな……


