窓側1列目
前から3番目の席に座っていて

綺麗な黒の長髪に漆黒の双眼

コバルトブルーの本を片手に、
毎日読書をしている



"櫻木サン"



その、端正な顔立ちとミステリアスな
雰囲気から学年男子のマドンナ的存在。

彼女に惚れている野郎共は両手で
数え切れないほどいるだろう。

実は、俺もその1人。




今日もまた、櫻木サンに
話しかける男子1名。

俺は頬杖を尽きながら、目を瞑る。
見ていられないのだ。


だっていつも______________
















…ガンっ、



室内に響く、痛々しい音。
…予想した通り。

男子は顔を抑えて櫻木サンの机の
側で蹲っていた。
おそらく、手にしていた本で殴られたもよう。

それを冷めた目で見下ろす櫻木サン。


もう、何度も目にした光景。







(アイツらもよく、やるな毎日…)







(って、俺のとこまで本飛んできてる)



気づいた俺は席を立ってから、
そっと本を拾い上げた。

意外と、重くて分厚い。



それを手にしたままゆっくりと
櫻木サンの席へ。





























『櫻木サン。』



彼女は俺を見上げる。
美しすぎるその瞳は冗談ではなく
本当に吸い込まれそうだ。

殴られやしないか、という妙な恐怖と
初めて今日話しかけた、という緊張で
視線を反らす。




『…これ、こっちまで飛んできてた』




櫻木サンの方を見ず、ぶっきらぼうに
本を勢い良く差し出す。

数秒間、間をおいてから
本を手にとってもらえた感覚があった。


ふと、視線を向けると

絡み合う、視線。


少し、早くなり出す心臓。
だんだんと上がる体温。



『…じ、じゃあ。』



耐えられなくなり、その場から離れようと
後ろを向いて歩き出そうとする。

と、そこで右ひじに違和感。

見てみると櫻木サンが俺の服を掴んでいた。



(女子力高え…っ!!)



内心ドキドキしつつ、見つめられるから
俺もじっと見つめ返す。

数十秒、視線を絡ませた後
艶の良い桜色の唇がゆっくりと動き出す。

























"あ り が と う"



口パクで。
でも確かにそう言った櫻木サン。

そう、彼女は話さないのだ。
正確に言えば声を出さない。

それと、男子に攻撃的。



『…お、おう。』





ドギマギした返事を返すと、彼女は
笑ってるか笑っていないか微妙なほどの
シニカルな笑みを浮かべた。