鈴音「テレビで殺人事件で犯人が逮捕されたんだって。」

ママ「へぇ、そうなの。」

トントントントン。
まな板の音で聞こえないのかママはいつも、口癖のようにへぇーと云う。

鈴音「それでね?ねぇ!なんか若い人みたいだよ!ねぇママ聞いてる?」

面倒臭そうに私の話しに対して振り返るママが包丁を持っている背景には、殺人事件のリポーターが必死になって喋っている。

大人の女の人って
包丁が似合うなぁって。
それとも、ママが似合うだけなのかな。

別にママは喋らない訳じゃないんだ。
ママは寧ろうるさい位に喋る。
パパも。
ママとパパっていつも楽しそう。
私には構ってくれないけれど。

ママ「お帰りなさい、貴方。」

パパ「よぉ、鈴音、今日も良い子にしていたかー?」

鈴音「うんっ!私、部屋に行ってるね。」

──ありきたりな会話。
だけど違うんだよ。

何にも聞きたくない。
ラジオでごまかすみたいにして、ヘッドフォンで耳を閉ざした。

「えー!ぎゃはははは!それでですねー、うちのオカンが包丁持ってた時、偶然にワシがおったねん!それで」

ブツッ。

やっぱり何を聞いても面白いチャンネルなんてなかった。

小窓から見える月。
じっと眺めていればきっと無になれる。

だけどそれも束の間。


パパ「鈴音、寝たかな?」

ママ「寝たみたいね。」

パパ「嗚呼…」

ママ「ちょっと…貴方…あっあ…」

パパ「俺達の子供って、いつ出来るんだろうな?」

ママ「うふふ…いつかしら…。」


……もう、パパは何回その言葉を言ったら気が済むのだろう。
丸聞こえ。
解ってる、きっと私。