「・・・兄ィ?起きてよ!もうすぐ日本に到着するよ?」

「ん・・・。」

僕はアイマスクをとり窓の外をぼんやりと眺める。横には興奮した様子の陽がいる。そ

の隣には俺と同様に秀が寝ていた。

「そうか・・・。日本・・・ついに来たか・・・。」

僕はここに来るまでの夢を見ていたらしい。つらいけど誇れる三人のそろって駆け出し

たスタート地点。もう昔のことのようだ。飛行機なんか乗ったことも、それどころか見

たことも無いから正直僕らは腰を抜かしかけた。そのほかにトイレさえも珍しくてたま

らないサマだ。ようやく慣れてきた頃にはもう目的地の日本。約束の、憧れの日本に着

いた。空港に僕らが降りると、お客さんの視線は僕らに集まった。僕らは日本人が珍し

く、日本人は結城兄弟が珍しい。

「ほら、止まらないで。いくよ。」

僕らを送ってきてくれた係人はタクシー乗り場の前に立って手を振って叫んでいた。

「今行く!」

陽は元気よくそう答えると駆け出していった。そして途中で歩きなれない床なもので転

んでしまった。

「なんだこの床!こんなつるつるしたのなんか見たこと無いぞ。」

そういって床に怒り出す。周りにいたおばさんが手を貸してくれて陽は立ち上がった。

日本人は僕らに比べて背が小さいと教師の人は言ってたけど、陽は年のせいか、栄養不

足のせいか、背がとても小さかった。

「おじょうちゃん大丈夫?」

そして何より陽は女顔だった。

「ぼ、僕は男の子だよ!おじょうちゃんだなんて・・・し、しつ・・・しつえい?」

たぶん陽は『失礼』といいたかったのだろう。困った顔で秀に無言の助けを求めてい

る。

「はぁ・・・。すいません。こいつ子供なもんで・・・。ほらいくぞ。」

「こ、子供扱いするなぁ!」

秀の腕を振り払おうとがんばるが華奢な陽ではびくともしない。

「それでは失礼します。」

そう言って有無を言わさず係人の元に引きずっていく。一見誘拐犯にも見える。だけ

ど、二人ともとても楽しそうだ。

「やれやれ・・・。」

それを僕は何より嬉しく思う。暗くつらい陰鬱な日々を乗り越えた褒美だと思ってい

る。

「要!早く来いよ!」