結びの魔法

「さっきも言っただろう･･･。格闘家の娘だと･･･。」

やっとのことでそれだけ搾り出した様な声だった。

「･･･止められないんだよ。私じゃあ･･･。」

先生も辛くて辛くて仕方が無いのだろう。目にはすでに悔し涙が溢れかえっている。

「先生でなくてもほかに、皆で止めるとか･･･。」

「やったが･･･無理だった。彼女は全国大会で何回も優勝してる･･･。いくら先生でも、

大人数でも、素人じゃ勝てないんだよ･･･。」

「･･･素人じゃなきゃ･･･いいんですね･･･？」

僕はすっと立ち上がった。そして洋子さんのほうに歩いてゆく。

「！！要君！やめなさいっ。君では無理だ！」

先生が必死に止めようとする。けれどその手を払い、秀と陽も僕のところへ来た。

洋子さんは僕らを見つけると、一目散に駆け寄って勢い良くけりを入れた。そのときに

見えた目は無残なほどにおびえた目だった。蹴りは僕のお腹に当たった。女子の力とは

思えない蹴りだった。僕は洋子さんの足を掴み、もう片方の足を払って転ばせた。その

間に両手足を秀と陽が押さえつける。

「はぁ･･･はぁ･･･。」

洋子さんは荒く肩で息をする。僕は洋子に近づきそっと抱きしめた。

「もう大丈夫。おびえなくてもいいんだ。もう･･･大丈夫。」

耳元で優しくささやき終わった頃には、洋子さんは放心していた。けれどその目には先

ほどのおびえたものは無く、この前と同じ光が灯っていた。そしてゆっくりと涙がほほ

を伝った。



洋子さんは自室に運ばれ安静に寝かせてある。もうすっかり落ち着いて、ぐっすり寝て

いるという。

「要君、ありがとう。ありがとうね･･･。」

先生は大人げも無くぼろぼろと大粒の涙を流していた。

「いいんですよ。当然のことをしたまでですよ。」

今度は先生をあやしている。たまに子供に戻ってしまう困った先生だ。

「君達は、何か習っていたのかい？とても強かったけど･･･。」

そう言って、先生ははっと口をつぐんだ。

「ごめんね。なんでもないんだよ。」

袖でぐしぐしと顔を拭く。そして初めて会ったと時のように軽快に微笑んだ。