「ごめん、ありがとね」
 少し元気をなくしたあたしを、2人は心配そうに見てくる。
「っと・・・。それより、テストでしょ?明日だよ、明日!今日は1日頑張らなきゃっ!」
 無理やり笑顔を作るけど・・・。
「「親友、ナメんなよ?」」
 やっぱり、2人にはかなわない。あたしは、「学校で言うから」とささやくと、美優のお父さんにお礼を言って車を降りた。


 「らしくないねー、夕日。」
「ほんっとだよ」
 2人に事情を説明すると、そんな風に言われた。
「親にお願いするんだけどさ、ここから遠くて。いつも断られるの」
 そう、あたしはあの町に戻りたいと何度も両親を説得していた。でも、いつも答えは同じだった。「ダメ」と。
 故郷の鳥取から、ここ、神奈川はずいぶん離れている。ユウトに会いに行くなんて無茶なんだ。
  ユウトは、部活でサッカーをしているらしい。大会が多いらしくて、手紙も年々減っていき、内容も薄くなっていった。そんな手紙を見るたびに、夕焼け空の下の約束、ユウトの言葉はウソだったんじゃないかって思ってしまう。
 あの笑顔も、あの町で過ごした時間も。全てがウソだったと。あたしは、もしかすると、生まれた時からずっとここにいるのかもしれないと。
 シンデレラが王子様と踊っている、魔法がかかった時間ってあるじゃん?
今、まさにそうだったりして。嫌だな、そんなの。嫌だ、やだやだやだ。
 あたしは、目の前が歪んで見えた。頬を伝う温かい水分・・・。
「あ、あれぇ?」
 言うまでもない、あたしは泣いていたんだ。美優と早奈は、あたしを優しく抱きしめてくれる。その温もりに安心して、切なくなって。あたしはもっと泣いた。
 この時、あたしはこれから先、もっと苦しい試練が待ち受けているとは思ってもいなかった。そして、生きているこの時間がかけがえのないものだったと知らされてしまうことを。