「ねぇ、夕日ってさー、どこから引越してきたんだっけ?」
 美優が、あたしを見つめてくる。
「鳥取だけど。それがどうかした?」
「ううん、不安って、あったのかなって。それに、好きな人を残して来たんでしょ?」
「ちょ、美優ー!やめてよ!それに、好きっていっても幼なじみの好きだからね?loveじゃなくて、like!」
 あたしは、手をひらひらさせながら笑う。確かに、不安がなかったわけじゃない。それに、キミを残して来たんだよ?悲しくないわけがない。できることなら、今すぐあの町に戻って、キミに会いたい。会いたいよ、ユウト。
 藤沢 ユウト。あたしの幼なじみで、大好きな人。っても、男としては見たことがない。お母さんには、「ユウトくんと、なんかあるんでしょー?」
といじってくるけど、そんなことはない。あたしに限って、あるわけないよ。
 早奈と美優にも負けない存在なのは確かなんだけど。
 確か、引っ越す前に、約束してたな。
『夕日。オレ、夕日が帰るの待ってるよ』
そうだ、あたしは夕焼け空の下で果たせないかもしれない約束をしたんだ。
『ずっと、待ってるから』
 温かい言葉に泣いてしまったあたし。あの時、まだ9歳。あれから5年以上の月日が流れた。

ユウトは、まだあたしを待っていてくれてるのかな?1度もあの町に戻っていないから、ユウトを見ても分からないだろうな。
 ユウトとは、手紙のやり取りをするくらい。それも、年に、2、3回だけ。
 もう、あたしのこと忘れてるんだろうな。そろそろ、彼女ができてもいいくらいなんだし。
「ーひ。ゆうひー。夕日!」
はっとして声のする方を見ると、早奈が心配そうにあたしを見ている。
「もうすぐ、着くよ?」
早奈は、あたしの制服を少し引っ張った。