『・・・いや、別に。行くぞ』

蒼はパッと手を離すと、先にうちの玄関から出ていってしまった。

『ちょっと待ってよ〜蒼ってばぁ!』

あたしは、足早に歩いてゆく蒼の背中を追いかけた。

水嶋蒼。

うちの隣の家、水嶋家のひとり息子。年が同じで、小さい頃からずっと一緒にいる。いわゆる‘‘幼なじみ’’ってやつ。

この友達以上、恋人未満関係は居心地がよくて抜け出せない。

蒼はあたしの気持ちなんて…、これっぽっちも気づいてないけど。


願いはずっと、ひとつだけだった。
・・・彼女になりたい。
蒼のことが好き・・・
小さい頃からずっと。
ずっと……蒼だけを見てきた。


隣を歩く蒼の制服姿を見て、高校生になったんだなといっそう実感する。紺色のブレザーに、中には白いYシャツ。
ゆるめに締めた、青のネクタイ。

グレーのズボンをルーズにはきこなしている。

髪は茶色に染め、ワックスでふわっと立たせている。

蒼は、中学の時より一段とカッコよくなっていた。

中学の制服だった学ランと、ブレザーじゃ、印象がだいぶ違う。

毎日見ているのに、日に日に男らしくなってゆくのがわかる。

だってほら。また、すれ違う通行人が蒼を見て振り返った。