幼なじみ〈上〉

俺は、夏川の首を両腕でつかんだ…。

『…んで?何でよぉ…栞には…助けてくれる人なんて…いなかっ…た…』

俺が手を離すと、夏川は俺から顔をそむけ泣き始めた。

『おい…何だよ…?また演技か…?』

『…ぅう…っ…』

泣いている夏川は、演技なのか本当なのか…俺にはわからなかった。

俺の返事に答えることもなく、ただ泣き続けている。

『おい…』

俺は、顔を横に向けたまま泣き続ける夏川の肩にそっと触れた。

『同じこと…しただけじゃない…。栞がされたこと…しただけ…なのに…栞には…守ってくれる人なんて…ひとりもいなかった…』

夏川は、ひどく震え、指をくわえて力強く爪をかんでいた。

『まさか…おまえ…』

俺は、夏川の上から降り、ベッドの端に座る。

『あのままじゃ…生きていけなかった…』

恨んで…恨み続けて、それでも悲しみは消えることなく、誰かを傷つけなきゃ栞は生きていけなかったと、そう俺に言った…。

夏川は、泣きながらゆっくりとした口調で俺に話し始める。

『何で…何で…栞だけなの…?』


夏川は小学校の頃、クラスの女子たちからイジメに遭っていた。

きっと男子から人気があったのを妬まれたのだろう。

クラスの中にひとりリーダー格の女子がいて、そいつに嫌われたらイジメに遭うらしく、女子たちは恐れて夏川をイジメ続けた。

その時受けたイジメと同じことを、絢音にしたという。

中学に入り、他の小学校出身の人間も混ざり、イジメは収まりつつあった。

そこで、夏川は、2コ上の3年の先輩を好きになる。

しかし、その先輩には同い年の彼女がいた。

あきらめようとした矢先、夏川はその先輩から告白され、彼女とは別れると言われて付き合い始める。

しかし彼女は、彼氏のことも夏川のことも許さなかった。

その彼女が夏川にした仕打ちは、高橋にしたことと同じ。

知り合いの男たちに頼み、夏川を襲わせたという。

そのせいで結局、先輩は夏川から離れていった。

心も身体も傷ついた中学時代。

友達もいない、誰もいない。

それでも不登校にならないわけがあった。

母とふたり暮らしだった夏川が中学2年になった頃、母親が再婚をした。

夏川は、その義父から性的虐待を受けていたという。

家でも、学校でも居場所がない夏川の心は…壊れていく。

身体に刻まれた、父親のあと、見知らぬ男たちにレイプされたあとを…

その記憶を打ち消すように、夏川は、たくさんの男と身体を重ね続けてきた。

自分が傷つかないように、人を傷つけることで自分を守ろうとしたと。

そうして生き続けてきたという。

欲しい物は手に入れ、とくに、男に関しての執着はすごかった。

『心から栞を…愛してくれる人なんていなかった…みんな見た目だけ…』

夏川は…言った。誰かの幸せを壊すことでしか、自分の幸福感を得ることができなくなっていたと・・・--。