「会長、貴方はまだ、あの事を気にかけておいでですか?」

…会長室。

副社長である忠行が、会長の岡崎裕次郎に向かっていった。

忠行は、少しばかり呆れ顔で・・・。


「…悪いか?…あの時、全く別の結果になっていれば、

この結婚も、すんなり認められたが・・・」

会長は、少し怒った口調でそう言った。



「会長、貴方は今現在、幸せではないとおっしゃりたいのですか?」

「・・・それは」

忠行の言葉に、会長は口ごもった。


・・・その時、

会長室のドアが静かに開き、会長よりはるかに不機嫌な

美津子の姿がそこにあった。


「…そう、アナタ、私とのこの十数年間、

ただの一度も幸せだと感じた事はなかったのね?」

美津子の言葉に、裕次郎は慌てふためいた。


「何をバカな?!私はそんなこと一言も」

「だって、今の言葉に、口ごもったじゃありませんか?」

「いやそれは・・・」

仕事では偉大な裕次郎だが、美津子に対してだけは、

頭が上がらないのである。

それは、やはり『あの事』が原因なのだが。