「私と二人の時は、仕事も、自分の地位も、

ぜ~んぶ、忘れてください、いいですね?」


「・・・それじゃあ、その敬語も止めろよ」


「今更止めるのは無理ですよ。なんだかこれが板についちゃって」

そう言って笑った舞は、英志の手を引き、マンションを出た。


「車で行かないのか?」

「行きません、電車を使いましょう」

そう言って終始ニコニコとしている舞。

そんな舞を見て、英志も自然と笑みがこぼれた。

そしてしみじみと、幸せを感じていた。


…これがごく普通の幸せなのか。

英志はそう思わずにいられなかった。


舞が向かった先は、メンズ服のお店。

英志は常にオーダーの服屋にしか入った事がない。

しかも作る服は、スーツばかり。


呆気にとられる英志をよそに、

舞は楽しそうに、英志をマネキンにでも見立てるように、

次々と服を合わせていく。


「なんだか腹が立ってきました」

「・・・何に?」