部屋に戻って来たのは約30分後だった。
姉を駅まで送ったのはいいものの、呼び出した人物が来るまで一緒に待っていたからだ。
姉を呼び出した人物は実際には見てないが、部屋を出る前に電話してきた人物ーー専務取締役だろう。
何があったかは知らないが、上手くいっているはずだ。
そう思い急いで部屋に戻ったのだ。
「…千夏?」
寝室に入ると彼女は規則的な寝息を立てて寝ていたのである。
ベッドの端に丸まって眠る彼女の姿が、あまりにも可愛らしい。
近くにあった毛布を彼女にかけて、ベッドの側の床に腰をおろして彼女の寝顔を見つめた。
…まさかこうなるとはな。
最後は彼女自身により、次の機会までお預け決定とは。
苦笑しながら彼女の髪を撫でていると、「んっ…」と少し身じろいだ。
起こしてしまったかと手を引いたその時。
「…や、さん」
「ん?」
「和也さん…」
俺の名を呼んで、彼女はふわりと微笑んだ。
その微笑みがあまりにも無防備過ぎて、俺は冗談抜きで我慢できないと思った。
まったく…どこまで俺を追い込めばいいんだ?
そう思いながらも俺の顔は険しくなく、かなり柔らかく微笑むことが出来たと思う。
理由は一つしかない。
彼女だからこそ、今までの苛立ちはどうでもよくなった。
苛立ちは嘘のように無くなり、今は穏やかな気持ちしかない。
「君だけだな…俺の心をかき乱してくれるのは」
そう呟き俺は再び彼女の頭を撫でたのだった。
「ご、ごめんなさいっ!待てずに寝てしまって…」
「別にいい…必ず責任は取ってもらうから」
「はい…って、え?責任?」
「楽しみにしているからな」
そう意地悪そうに微笑めば、彼女はイマイチ納得出来ていないという表情をしながらも「頑張ります!」と言った。
ああ…俺の幸せかつ平和な苦悩は、もう少し続きそうだな。

