「 指切りげんまん嘘ついたら針千本のま〜す」

えっと、何の指切り?

あなたは、誰?

ジリリリリ

そう問いかけた時、目覚まし時計は6時半を指して鳴った。

「 う〜ん」

まだ、眠い中、半分頭がボ〜としながら、私は起き上がる。

また、この夢かぁ…

同じ夢、何度も見るんだけど、誰と何の指切りをしているのかが分からないだよね。

もどかしいような、消化不良を起こして胸がつかえたような気持ちになりながら、モソモソとベッドから起き上がると制服へと着替える。

私の人生においての謎はこの夢なんだよね。もっとも私の人生なんて、高2だから17年なんだけどね〜。幼稚園くらいから、よく見るんだよね。この夢。



「ちょっと、清麗、何、ぼーっとしてんの? 早くご飯食べちゃいなさい」

お母さんの声で、夢の事を考えていた私はハッと我に返った。

夢もだけど、ホント、この名前どーよ? 清く麗しくなって欲しいで、清麗、せいれいってさ。フツー、女の子に付けるか?

フツーはつけないだろう…。親は、あんまり知らないだろうけど、この名前のお陰で、私がどれだけ苦労してきたことか…。変な名前なんで、小学生の頃はからかわれ、中学、高校でもすぐ名前覚えられて、オチは変わった名前ねだった。しかも、名字が有栖川だから、更に強烈だよね




夢と名前のことで、朝から色にすると灰色っぽい気分になりながら学校へ行くと、教室に入った途端、私の前の席の優梨が、

「ちょっと、ちょっと、清麗。今日転校生が来るんだってよ〜」

と、嬉しそうに教えてくれた。

「え、転校生? でも、うちのクラスに来るかどうか分かんないよね」

「それが、さ。さっき職員室へ行った真知子が、霧野先生に教頭先生が、転校生が転校生なだけに大変だと思うが、ま、一つよろしく頼むよって言ってるのを聞いたんだって」

霧野先生は、うちのクラスの担任だ。そにしても…、

「何? その転校生が転校生なだけにってのは」

「よく、分かんない。でも、もしかしたら、芸能人みたいに超カッコ良い男子なのかもね」

「えっ、男子なの?」

優梨の答えに私が訊くと、

「ううん。男子か女子か分かんないんだけど、私達女子は男子の転校生であって欲しいと思っているし、男子は女子を期待してるみたいね」

ふーん。そうなのかぁ。でも、10月の頭に転校して来る転校生って? まぁ、この学校は長崎市内でも5本の指に入る進学校だから、不良とかではないと思うけど…。

いや、分からんぞ。案外、勉強出来て学校外では不良なのかも…。

そんな事を考えていると、ホームルームのチャイムが鳴り、5分もしないで先生が入って来た。し•か•も、金髪、青い目の少年を連れて。

いきなりの外国人登場にクラスの皆の目が点になっている中、

「皆さん。おはようございます。今日は転校生がうちのクラスに入ることになりました」


と先生が言う。更に続けて、

「キム•ヨンジュン君です。

はい? 今、キム•ヨンジュン君って言った? フツー、金髪、青い目の男の子って、ジョージとかアレンとかこんな名前だよね? 名字だってアンダーソンとかハワードとか、そんな名前の気がするんだけど…。

な〜んて事を考えていたら、先生が、

「それでは、キム君、自己紹介して」

え!! この人、日本語分かるの? じゃ、挨拶も日本語? 私の疑問の解答はすぐに出た。

「皆さん。おはようございます。アメリカのニューヨークから来ました。キム•ヨンジュンです。何故、名前がアメリカっぽくないかというと、僕は赤ちゃんの頃に韓国人の両親に養子として迎えられ、韓国の名前を貰いました。複雑そうだけど、赤ちゃんの時養子になり、両親が韓国の人だったという簡単なお話です。よろしくお願いします」

フツーの転校生の場合、ここら辺で、

「何だぁ、男子かぁ」


という声が男子から出るところだけど、顔は西洋人、名前は韓国人の転校生に皆、呆気取られている。私も、まさかこんな転校生が来るなんて思っていなかっなので目が点になっている。

こりゃ、確かに、教頭先生が、

「転校生が転校生なだけに…」

っていうわずよね。うん。

そんな事を考えていたら、男子の一人が手を挙げて、

「キム君は、日本語完全に分かるんですか? どうして、日本語分かるんですか?」

と訊いた。私も、それ知りたい!!!

「あ〜。キム•ヨンジュン君は、10歳まで日本にいたんだ。だから、日本語が出来るんだよ」

先生の言葉に皆納得。そして、

「だから、英語、あんまり得意じゃないんだ。皆さん。教えて下さい」

笑って言うキム•ヨンジュン君の言葉に、皆もつられて笑う。だって、金髪、青い目の男の子に、英語教えてなんて言われるなんて妙な気分だし、おかしいよね。

し•か•も、ユーモアがあるだけでなく、スリムで背が高く、モデルにしても良いような美形なので、女子達がポーっとなっている。う〜ん。分かる!!! 私も思い切り見惚れていた。

「あ〜、それでは、キム君の席だが…。ん、ちょうど、有栖川の席の隣が空いてるな。じゃ、有栖川の隣に座って貰うおか」

先生の言葉に、

「え〜〜〜、清麗、良いな〜」

「私も一番後ろの席だったら良かった〜」

女子達から羨ましげな声が上がる中、私の名前を聞いたキム•ヨンジュン君は、何故か目を見開き、私の顔をジッと見つめたのであった。