「これ。」
差し出された物は見たこともないような真っ黒な封筒。封筒の裏に∞のマークが不気味に光っている。自身は断りたいのに、圧力のような物が押し寄せてきて断れず、無意識のうちに封筒を受け取ってしまった。
「中開けてみて。」
言われるがまま開封すると、小さく折り畳んだまたも真っ黒な手紙が入っていた。その手紙にも同じ∞のマーク。
「ありがとう。」
女の子は席を離れ、どこかへ行ってしまった。気になって手紙を読んでみると、一言だけ真っ赤な字でこう書いてあった。
最初の友達見ーつけた
「うわっ!」
静かな館内に声が響いた。一瞬にして注目を浴びてしまった。恥ずかしくなり、読んでいた本を戻すのを忘れ、逃げるように図書館から出た。
「何なの…この手紙。」
本は置いてきたが手紙はしっかりと握りしめていた。封筒はない。帰宅すると珍しく母がいた。
「おかえり。」
「ただいま。今日は休みなの?」
「たまには理香と一緒にいたいからお休みしたの。なかなか一緒にいてあげれないから。」
母の名前は小春。45歳バツイチのシングルマザー。昼間はスーパーで働き、夜はスナックで働いている。
「そうなんだ。…あ!」
理香は握りしめていた手紙を見せた。
「ママ、これ見てほしいの!」
ぐちゃぐちゃになった手紙を広げた。
「図書館に行ったら知らない子に貰ったの。その子様子がおかしいの!何て説明したらいいかわかんないけど、とにかくおかしいの!!」
半ばパニック状態だった。
「血で書いたみたいな文字ね。気持ち悪いわ。どういう意味なのかしら?」
「友達になった覚えもないんだよ?」
「悪戯かもしれないわね。捨てましょう。」
母は手紙を丸めてゴミ箱に捨てた。ホッとしたのも束の間だった。
プルルルルル…
電話が鳴った。直感で取ってはいけないと思ったが、母がすぐ電話に出てしまった。
「もしもし立花でございます。…えっ!?」
「どうしたの?」
母は困惑した表情で応答している。ただならぬ雰囲気が流れた。
「もしかしてあなたが娘に手紙を渡したんですか?あんな気持ち悪い手紙、いい加減にしてください!」
「ママ…?」
どうしていいかわからず立ち尽くす理香。
「え?私の名前ですか?立花小春です!もう切りますので!!」
そう言ってガチャ!と力強く受話器を置いた。
「理香。あの子にもし次会ったら関わらない方がいいわ。変なのよ。」
「何か言われたの?」
「最初の友達の子の名前がわからないから、代わりにあなたの名前を教えてって。いい?名前も名乗らなくていいのよ。何されるかわからないから。」
「ママは!?名前…言ったじゃん!」
「ママは大丈夫よ!相手はまだまだ子供だもん。もし次何かされたらママの名前出しなさい。立花小春が怒ってますって。ね?」
「うん。」
腑に落ちなかったがそう返事するしかなかった。それから二人で久しぶりに一緒に夕飯を食べ、シャワーを浴びて寝た。
