氷室拓斗にだっこされたまま隣の部屋に入ると、誰か男の人がいた。



その男が近づいてくる。




「拓斗の新しい女。」




氷室拓斗が豪快に笑う。




「兄貴、いつ帰って来たの。」



目の前のいたのは拓斗の兄の氷室直人だった。



拓斗より2才上で、確か結婚したと紗綾姉に聞いていたけど。



それより下ろしてほしい。



「兄貴はいつも突然だから、困るよ。」



お願いだから、下ろして下さい。



おばれてやる。



「大人しくしてろよ。」



すみませんと、心の中で謝った。



「その子が新しいモデルなのか。」



「三枝木の一押しだから間違いはないだろ。」


直人が薄笑いを浮かべた。



「美奈が選んだなら、間違いはないと思うよ。奈美が間違った選択をしたことは、一つだけあるけどな。」



話が全く見えない。



もしかして、三枝木美奈さんと氷室直人さんは恋人同士とか。


恋人同士だったが別れたとか、そんなとこだろうか。



「手が痺れた。」



いきなり床に落とされた。



痛いよ。



腰をさすっていると、氷室直人が近づいて顔を除きこむ。



「何処かで会った事ないか。」



会ってるけど、会った事ないと嘘をついた。



氷室拓斗は私の事は何も覚えてなかったのに、氷室直人に知られるのはかなり不味い。



このまま何事もなかったように、過ごさなきゃ。



「暫く日本にいるからさ。おまえの仕事手伝うわ。」



三枝木美奈さんが物凄く嫌な顔をした。



やっぱり、別れた恋人同士なんだ。



氷室直人は何だか、危険な匂いがする。



これ以上近づくと、何かが起きそうで怖い。