緊張のあまり手足が一緒に出て上手く歩けない。



今日の為にルシエルの服を着て来たというのに。



「そのまま歩いて、そこの椅子に座ってください。」



目の前にはイケメン社長がいた。



あれ、何処かで見た顔?



あぁぁ、いた、いたのだ。



目の前に氷室拓斗がいる。



どうしよう。



体がガタガタ震え、声もでない。



「名前と年令、今は何の仕事をしているのか話してください。」



名前を言ったら絶対ばれる。



でも、履歴書に書いてあるし、今更嘘もつけない。



バカな頭で必死に考えた。



氷室拓斗は私の事を覚えていないかも知れない。



私を見ても動揺すらしない、この男は覚えてるはずかないと確信した。



椅子から立ち上がり、年令と名前を言った。



「加納真凛、25才。仕事は主にコンビニでバイトしています。」



今、笑ったよね。



又、バカにすればいい。



でも、10年前の私とは違う。



何を言われても怯んだりしない。



「25才でコンビニでバイトですか。僕と同じ大学を出てるのに、もったいないな。」



はい、みんなにも同じ事を言われてますが。



氷室拓斗のせいで歪んだ人生を歩んでいます。



言葉には出さず、氷室拓斗を見つめた。


「モデル経験はあるみたいだ。ルシエルの服を上手く着こなしてるし、きみにするよ。」



そんな簡単に決めて良いのですか。



加納真凛の名前を聞いても、氷室拓斗は全く気づかなかった。



そうですよね。



氷室拓斗にとって、加納真凛はそんな存在。



分かっていたけど、悔しくてたまらない。



今はこのままの関係でいい。



「ありがとうございます。精一杯頑張りますので、よろしくお願いいたします。」



「僕は若い子が良かったけど、三枝木がきみを押したから、決めただけ。三枝木にお礼を言って置くと良いよ。」



そう言う事でしたか。



分かりました。



三枝木美奈さんにお礼を言って頭を下げてると、社長が私の肩を叩いた。



「今すぐにその服脱いで。」



服を脱ぐ。



何で、こんな場所で服を脱がなきゃいけないんですか。



「三枝木話してないのか。下着モデルだと言うことを。」



聞いてないよ。



人生最大のミスをおかしてしまったようだ。


三枝木美奈さん、下着モデルだと話してくれましたか。



「はい、一番最初に話してあります。」



そうですよね。



コンビニのバイトに戻ろう。



氷室拓斗にいきなりお姫さまだっこをされた。


ちちょっと、何、下ろしなさいよ!