「瞬くんとってちーちゃんって、”ワレモノ注意”?」



仁奈子は悲しそうな声でつぶやいた。




何も答えられない。




「仁奈から見れば、瞬くんがちーちゃんをすっごく大事にしてるのわかる。だからちーちゃんが”壊したくない特別な宝物”なのもわかる。


でもちーちゃんは、瞬君のこと、そんな風に思ってないよ。瞬君は普通の”大好きな彼氏”だよ。」




壊したくない特別な宝物・・・。


仁奈子の言うとおりだ。


俺はちとせを・・・多分、そう見てた。




「”大好きな彼氏”が困ってたら助けてあげたいのは彼女の当たり前の気持ちじゃないのかな。ちーちゃんじゃ・・頼れない?」



「そういうわけじゃねぇけど・・。」



ちとせの体が大事だった。


無理なんか絶対してほしくない。


でもそういう俺の身勝手な気持ちは・・・ちとせの心を無視してた。



「・・・届きそうで届かないはがゆさ・・わかってあげてよ。」




しんとした待合に、ストーブの低音とヤカンの揺れる音が響いた。




「・・・さんきゅ。仁奈子。まだ、ちとせ学校にいるよな」



「いると思う。」




俺は痛む足をこらえて、立ち上がった。




「・・自転車、乗せてくよ。ちーちゃんのお見舞いの時のお返し。」



駅を出て、仁奈子の銀色の自転車にまたがった。



「わりぃな。全速力で。」



「そのくらいの図々しさ、ちーちゃんにも見せればいいのに。」



仁奈子はぐっとペダルを踏み込んだ。



ぐんぐん風をきる、仁奈子の全速力。



「瞬くんさぁ!口下手なんだから、ちゃんと伝える努力しなよ!」



「わかってるよ」



「わかってない!ちーちゃん、”したいって思われてない”って、”あたし色気ないからなぁ”って言ってたよ?」



「色気?!」



あるだろ、普通に!


どんだけドギマギさせられてると・・・。



「本当に一度も”したい”と思ったことないの?ちがうでしょ?照れたがり!ほんとバカ!」



「おめぇ・・」



キッと軽い音を立てて、仁奈子の銀チャリが裏門の前で止まった。



「はぁっ、疲れた!・・もう、しっかりしてよね!」



ガッツポーズをおくられた。



「あぁ。今日は・・さんきゅ。」



保健室の窓を3回たたくと、大好きなやつがひょこっと顔をだす。



「あ、瞬だー。」


ってガラスの向こうでにこにこと笑う。