瞬は天使くんをちらりと見たけど、華麗にスルーして、あたしの手を握った。




「ごめん。目の前でおっさんが財布落としてったから追いかけてさ。この人ごみで手間取った。」


「そうだったんだ。・・偉いなぁ。」



人のために息を切って、走ってくれるひとなんだよ。



「おい!俺のことは無視か!!」


天使くんが叫んだ。



「あ?俺、お前なんか眼中にねえもん。もちろんちとせもな。」



瞬に手を引かれて、天使くんから離れた。



「うっぜぇ!別れちまえ!!」


「はいはい。よい子はさっさと飯食って寝ろ。」



瞬・・・そんな逆なでするような憎まれ口たたかなくても・・。


でも、べっと出した舌がちょっと可愛かった。



「あはっ・・・もっかい見たいかも。」


「なにを?」



花火会場を目指す道で、ひゅるると高い音がなりはじめた。


手を繋いだまま、足を止めて。


見上げる夜空、一輪の花火。




「・・・・わぁ・・。」



ドンっと胸に響く低音。



「瞬、見れた?」


「うん。」



瞬の手にきゅっと力がはいる。


切なそうに眺める横顔。


「瞬?」


「ん?」


「・・・来年も来ようね。」


「そうだな。」



あたしの言葉に微笑を浮かべる。




あたしが彼にできるのは、


生きることくらい。



遠くの花火をみつめて、いつまでも繋いだ手を離さなかった。