俺からそそくさと離れる咲に、ちょっと惜しいことをしたなと思ってしまった。
「あのさ…………泣きすぎ。」
そう言って、彼女の頬を伝う涙を左手で拭う。
「だって…………すごく、すごく嬉しくって…………!」
涙を目に溜めて、いつも以上に潤む彼女の瞳を綺麗だと思った。それと同時に、彼女を泣かせた『あの日』を思い出してしまった。
『咲…………ごめん。ごめんね…………』
『……………くん………?どうしてそんなこと言うの…………』
「……………ごめん…………」
「え…………?クロ先輩、どうしたんですか?」
はっと気がつくと、彼女の涙は既に止まっていた。
「え、いや……………」
「………………?」
咲は不思議そうに首を傾げている。今はそれでいい。まだ思い出さなくてもいい。
俺の隣にいてくれるだけでいい。